用語集

油焼入れ(あぶらやきいれ)

冷却媒体として油を使用する焼入れ方法です。油は水よりも冷却速度が穏やかで、鉄鋼製品を加熱状態から油中に浸すことで温度を下げ、マルテンサイトやベイナイトの形成を促します。油焼入れは、製品に過度の応力を与えずに硬化させたい場合に選ばれます。

α鉄(あるふぁてつ)

911℃以下の温度で純鉄が安定する形態です。この形態の鉄の結晶構造は体心立方(BCC)であり、磁性の性質も温度によって異なります。768℃(キュリー点)以下では強磁性を示し、768℃から910℃の間では常磁性の性質を持ちます。この温度依存の磁性変化は、鉄の物理的特性に重要な影響を与えるため、様々な工学的応用で考慮されます。

アルミナイジング

鉄鋼製品の表面にアルミニウムを富化させる熱化学処理です。この処理により、鉄鋼の耐熱性及び耐食性が向上します。フェロアルミニウムなどの粉末を使用した方法はカロライジングとも呼ばれます。

安定化熱処理(あんていかねつしょり)

鉄鋼製品に対して施される熱処理で、時間が経過しても製品の寸法や組織が変化するのを防ぐことを目的としています。この処理を通じて、製品は長期にわたる使用でもその性能と品質を維持する能力が向上します。主に、使用環境が厳しいアプリケーションで求められる鉄鋼材料の信頼性を確保するために重要です。

安定化焼なまし(あんていかやきなまし)

特定の化合物、例えば安定化オーステナイト系ステンレス鋼において、炭化物の析出や球状化を促進するために行われる焼なまし処理です。この処理は約850℃の温度で実施され、材料内の不純物を安定した形で結合させることにより、材料の耐食性や加工性を向上させます。この技術は特に、高温での性能が要求されるアプリケーションにおいて重要です。

イオン衝撃熱処理(いおんしょうげきねつしょり)

この技術は、減圧した環境下で、処理物を陰極、陽極として配置し、グロー放電を利用して行われる表面処理です。このプロセスにより、イオンが処理物の表面に衝撃を与え、材料の特性を改善します。

一次焼入れ(いちじやきいれ)

浸炭した鋼の心部の組織を微細化する目的で実施されます。この焼入れでは、心部をそのAc3点以上の適切な温度に加熱し、微細な組織を得るために急冷します。

ウイドマンステッテン

母相固溶体の特定の結晶面に沿って新しい相が形成されることによって生じる組織です。この構造は、顕微鏡での観察時に特有の針状の形状を示します。亜共析鋼では、この針状フェライトがパーライトの背景に現れることが一般的です。一方、過共析鋼では、針状の組織がセメンタイトから構成されています。ウイドマンステッテン構造は、特定の冷却条件下で形成され、材料の機械的性質に影響を与える重要な特徴です。

鋭敏化(えいびんか)

ステンレス鋼における粒界への炭化物の析出により、粒界腐食に対する感受性が増加する現象です。この炭化物の析出は、特に熱影響を受けやすい条件下で生じ、材料の耐腐食性を低下させます。鋭敏化処理は、粒界腐食の抵抗性を研究するために用いられることがあります(ISO 3651-2参照)。

炎焼入れ(えんやきいれ)

熱源として炎を使用する表面硬化処理です。この方法は、鉄鋼の特定の表面部分のみを焼入れするために用いられ、局部的に硬度と耐摩耗性を向上させる目的があります。炎を使って素早く表面を加熱し、その後急冷することで表面の硬化を実現します。

塩浴熱処理(えんよくねつしょり)

特定の塩を溶かした液体の浴槽を使用して行われます。材料をこの塩浴中に浸すことで、均一な温度で加熱し、所望の物理的・化学的特性を材料に付与します。

塩浴焼入れ(えんよくやきいれ)

溶融塩を使用して行う熱浴焼入れの一種です。この方法では、加熱された鉄鋼製品を溶融塩の熱浴に浸すことで急速に冷却し、所望の硬化を達成します。塩浴を使用することで、製品の温度を均一に保ちながら効率的かつ迅速に冷却することが可能です。

エンリッチガス

浸炭処理においてカーボンポテンシャルを増加させるために添加される炭化水素などのガスです。このガスは、処理雰囲気中の炭素濃度を高め、鉄鋼の表面に効率的に炭素を供給することを目的として使用されます。

オイルテンパ処理(おいるてんぱしょり)

鋼線を連続的に真っすぐな状態で、油などの冷媒を用いて焼入れを行い、その後焼戻しを実施する処理です。この方法により、鋼線は適切な硬さと靭性を持ち、高い耐久性と機能性を維持しながら、所望の成形や使用が可能となります。

応力除去焼なまし(おうりょくじょきょやきなまし)

材料の本質的な組織を変更せずに内部応力を減少させるために行われる熱処理です。このプロセスでは、材料を応力除去のための適切な温度に加熱し、その後均等に保温します。加熱された材料は適切な速度で冷却されることで、製造や加工中に生じた内部応力が効果的に解消されます。この熱処理は、製品の寸法安定性を向上させ、将来の使用中に発生する可能性のある亀裂や歪みを防ぐのに役立ちます。

オースエージ

過冷オーステナイトをMs点以上の温度で時効する処理です。この処理は、特定の析出硬化系ステンレス鋼(例えばSUS631など)に対して行われ、Ms点の調整や特定の微細構造の安定化を目的としています。この時効処理により、材料の特性を最適化し、特定の応用における性能を向上させます。

オーステナイト

一種以上の元素が固溶したγ鉄(ガンマ鉄)固溶体です。この相は、特に高温条件下で鉄の面心立方結晶構造として存在します。オーステナイトは、鋼の加熱処理において重要で、冷却方法に応じて異なる微細構造へと変化する能力があります。これにより、鋼の最終的な機械的特性が大きく左右されます。

オーステナイト化

鉄鋼製品の組織をオーステナイト構造に変換するために必要な温度で行う熱処理です。この処理は、製品を特定の温度範囲に加熱し、その結果、組織内の相変態が促進されます。もし変態が完全には行われない場合、この状態を部分的オーステナイト化と呼びます。この技術は、鉄鋼の機械的性質を向上させるための重要な工程であり、特に硬度や強度を調整する際に利用されます。

オーステナイト化温度(おーすてないとかおんど)

鉄鋼製品がオーステナイト化熱処理を受ける際に達する最高の温度を指します。この温度は、鉄鋼の組織がオーステナイト相に変化するために必要な熱エネルギーを提供し、材料の機械的性質や加工性を改善するための重要な要素です。この温度を正確に制御することが、望ましい材料特性を得るために不可欠です。

オーステナイトの安定化(おーすてないとのあんていか)

固溶原子の分配などによってオーステナイトが安定化され、マルテンサイトへの変態が起こりにくくなる現象です。この安定化は、焼入れ後の残留オーステナイトを低温焼戻しや常温での保持によって促進され、常温以下への冷却で残留オーステナイトのマルテンサイトへの変態を抑制または阻止する効果があります。この現象は、特に高合金鋼や特定の工具鋼において重要な役割を果たします。

オーステンパ

オーステナイト化した鉄鋼をフェライトやパーライトの形成を避けるために、Ms点より高い温度に十分早く冷却し、その後、オーステナイトからベイナイトへの変態が部分的または完全に起こるように均熱する階段焼入れを行う熱処理です。この方法により、ベイナイト組織を効果的に形成し、特定の機械的特性を実現します。

置割れ(おきわれ)

置割れ、または自然割れとも呼ばれる現象は、焼入れまたは焼戻し後に鉄鋼を放置している間に生じる割れです。この割れは、処理中に生じた内部応力が時間経過と共に材料の限界を超えることで起こります。